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犬返し - 三木眞一郎

犬返し-三木眞一郎.mp3
[00:17.35]刃(やいば)の上を歩くような、険しい道─。...
[00:17.35]刃(やいば)の上を歩くような、険しい道─。
[00:21.14]それは犬返し。
[00:23.00]断崖(きりぎし)の上の細き道だ。
[00:25.63]一歩足を踏み外せばそこは地獄。
[00:29.84]深き谷底が口を開けて待っている。
[00:32.47]それでも俺は、俺たちは、この道を駆け抜ける。
[00:38.53]あたかも、いっしんに流れ落ちて行く激流のようにな。
[00:48.78]だが俺たちが先へ急ぐのは、
[00:52.20]己れが平らかな道に出るためじゃねえ。
[00:56.55]道なき道を切り開き、
[00:59.80]あの遙かなる地平へとつなげるためだ。
[01:06.89]嗚呼、しかし、こんな犬返しにも桜は咲くんだ。
[01:11.30]愛でることは叶わず、
[01:13.70]ましてや手折ることなど思いもしねえが
[01:15.66]瞼を閉じれば桜が咲き続ける。
[01:19.80]─それだけでいい。
[01:20.46]俺は行く。
[01:22.01]前だけを見つめて。
[01:35.20]人は、誰でもひとつの道しか走ることはできねえ。
[01:40.40]俺たちの選んだ道は、引き返すことはもちろん、
[01:44.85]立ち止まることだって許されねえ。
[01:47.78]しかし、俺の目の前には尊(たっと)ぶべき仲間の背中がある。
[01:53.33]そして俺の後ろには、
[01:55.87]疾風(はやて)のようにあとをついて来る奴等がいる。
[01:59.22]まるで、迷うことなく共に突き進んで行く獰猛な狼の群れのようにな。
[02:06.72]この烈しき時代のうねり、それに押し流されぬため、抗うために、
[02:13.81]俺たちは固くこの手を結んだ。
[02:16.74]そして、魂をも結んで進むと決めたんだ。
[02:25.06]嗚呼、この危うい日々も、ふと気づけば春は来る。
[02:29.75]あの桜も散ると分かっていながら、繚乱と空を飾る。
[02:33.83]その下を、俺たちはこの断崖(きりぎし)の上を疾走(はし)る。
[02:37.57]─たとえ二度と会えなくても、懐におまえの記憶をしまったまま…。
[03:01.31]断崖(きりぎし)に咲いた桜よ、
[03:04.24]あんまりおまえが可憐に微笑むから、
[03:08.37]俺も、こんな戯言(ざれごと)を語ってしまったのかもしれねえな。
[03:19.20]しかし、今日を限りに、
[03:21.73]俺の全ての想いは胸にしまう。
[03:24.61]艶やかなおまえの面影。
[03:27.33]生涯に一度の想い出。
[03:29.82]たとえたまゆらでも、それだけでいい。
[03:33.94]─俺は行く。
[03:35.66]影さえも、残さずに。
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